2009年4月27日月曜日

孤立に拍車かける「介護離職」 清水由貴子さんも陥った?心理とは


「仕事を続けていれば、思い詰めずに済んだかも…」。母親(80)を介護していた元タレントの清水由貴子さん(49)の自殺に、介護経験者や専門家は口をそろえる。自宅で要介護者をみる家族は孤立しがちで、離職はそれに拍車を掛ける。清水さんは、介護離職者が陥りがちな心理状態の末に命を絶ったのだろうか。
清水さんは平成18年3月、母親の介護に専念するため、芸能活動を休止。民間企業でパートをしながら介護を続けてきたが、パート契約を更新しないつもりだったという。

 清水さんが住む東京都武蔵野市は「介護では日本一」ともいわれ、介護保険を補完する市独自のサービスも充実している。しかし、清水さんは「自分でやりたい」と言い、限度額約36万円(自己負担は1割)の介護保険サービスのうち、利用していたのは30万円(同)に満たなかった。母親を担当するケアマネジャーの所属事業所の責任者は「自殺をにおわせることは一切なかった」と明かす。

 もっとも、重度の要介護者を自宅でみる介護者が周囲の印象と裏腹に、悩みを抱えていることは少なくない。

 東京都内の経営コンサルタント、今岡善次郎さん(61)は身につまされる思いでニュースを聞いた。今岡さんの妻は認知症で要介護5。「清水さんは弱みを見せず、だれにも相談しなかったと聞きました。私も、周囲に黙っていた最初の3年間はつらかった」と今岡さんは話す。

 妻は今、入院中。だが、在宅介護をしているときは、今岡さんの外出時間が限られ、新規の営業活動ができず、仕事が減っていった経験がある。「片時も目を離せず、仕事を続けられない。家で仕事をしようにも、そばにいるかぎり、仕事にならない。デイサービスは1日の3分の1しかカバーせず、特に土日は本当に苦しかった」と体験を語る。

 平成12年に介護保険が創設され、介護者の負担は減ったとされる。しかし、介護保険の在宅サービスは、1回1時間半程度の訪問介護と、長くても1日7~8時間のデイサービスの組み合わせが一般的。介護者が働いていると、介護保険だけでは十分とはいえない。

 国立長寿医療センターの遠藤英俊・包括診療部長は「清水さんは親への愛情や責任感が押し寄せ、ひとりで苦しんでいたのではないか。介護が大変になっても、仕事を辞めてはいけない。やれる範囲でやればいいし、難しければ施設をお勧めしている」と、仕事の継続を勧める。とはいえ、親の要介護度が重いと、だれかが家で“介護役”にならざるを得ないのも実情だ。

 美術家の折元立身(たつみ)さん(62)は認知症で要介護4の母親と2人で暮らしている。欧米の美術館などから招かれる機会も多く、母親を月1回施設に預けて海外に出かける。「ぼくがそばに居てあげたい」とも思うが、自分が元気になれば、母親も元気になると感じる。「清水さんは社会とのかかわりをなくし、こもってしまったのでは。家にいると、ヘルパーさんらが来て、話をしてくれるだけでうれしい。清水さんのようにタレントとして脚光を浴びた経験があるとつらいだろう。小さな番組でもタレントの仕事ができればよかった」と残念がる。

 「認知症の人と家族の会」の高見国生代表も「介護に携わる人は、介護だけに専念せず、仕事をできる限り続けた方がよい。似た境遇の仲間を見つけることも大切だ。もっとつらい人がたくさんいると分かれば、死を思いとどまる可能性が高くなる」と、人とのつながりの重要性を強調している。

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 ■まだ少ない介護休業の取得者

 仕事をしていた人が、それをあきらめて介護に携わると孤立しがちだ。

 ところが、総務省の就業構造基本調査によると、平成18年10月から1年間で、家族の介護や看護のために会社を辞めたり、転職したりした人は14万4800人=グラフ。約10年で1・6倍に増えた。その一方で、介護休業の取得者は平成19年度で7120人と2ケタも違う。

 少子高齢化と核家族化で家族の介護力が弱まり、独身の娘や息子による介護は珍しくなくなっている。そうした中、家族介護を前提にした介護保険サービスには限界がある。介護をしながらでも、働き続けられる仕組み作りが求められる。

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 ■清水さんの母親は要介護5

 関係者によると、清水さんの母親は平成18年10月、自宅で転倒後、歩行困難になったのを機に介護保険を申請し、要介護4と認定された。

 その後、要支援2まで回復したが、昨年8月に再び自宅で転倒し、肋骨(ろっこつ)を骨折して約4カ月間入院した。入院中に受けた要介護認定で最重度の要介護5に。

 昨年12月に退院した後は、介護保険のデイサービスに週5回通い、入浴や食事の介助を受けていた。

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